都心に暮らす友人から、「地方転勤で数年東京を離れるので、安い家賃で持ち家にしばらく住んでくれないか」という相談がありました。当時私は賃貸アパート暮らし。当時と同程度の家賃で、都心の一軒家に住めるなんて夢のまた夢とあって、すぐに承諾しました。友人同士とはいえ、一応賃貸契約も交わし、安い家賃で住まわせてもらう代わりに転送されない郵便物の管理などこまごまとしたことを頼まれ、都会暮らしを楽しんでいました。ところが、郊外のアパート暮らしと異なり、一軒家は光熱水道費が高いということに気づかずにいたのです。また、都心での生活費は、飲食代ひとつとっても高額です。そして私は、友人であることをいいことに、1か月、また1か月と家賃を滞納するようになりました。友人も私を信用して、毎月の家賃支払いをチェックすることはありませんでした。いつしか、滞納した家賃の額は100万円を超えていました。数年経ったある日、友人から「何かの間違いかもしれないけど、銀行口座に家賃の支払いが確認できないんだけど」と言われました。私は恥ずかしさで顔が真っ赤になりながらも、家賃を滞納していたことを正直に認め、謝りました。通常なら、強制的に退去、給与差し押さえとなるところですが、友人は親切にも、これまでの滞納分を借金として、借用書を作って、私が月々返せる金額を返すということで合意しました。しかも、友人は、自分の留守中に家を綺麗に使ってくれていたことに礼まで伝えてくれたのです。今、私は、ひとときの都心暮らしを味わわせてくれ、寛大な措置をとってくれた友人に感謝をしながら、その借金を返しています。身の丈にあった郊外の安アパートに戻り、節約して浮いた生活費を無理なく返済に回すことができています。お金のことよりも何よりも感謝しているのは、友情が壊れなかったことについてです。借用書、という事務的な処理がなければ、感情論になって友情が壊れていたかもしれないと思っています。